#8「経営者として何をすべきか」箇条書きした能登半島地震の夜

 

中川広紀さん   ハートランドヒルズin能登

「どこの温泉旅館もそうですけど、年末年始は一番の繁忙期で、おかげさまで別荘はほぼ満室だったんですよ」

志賀町の中心部、高浜町の国道249号沿いに「ハートランドヒルズin能登 案内所」がある。2024年1月1日、経営者の中川広紀さんがこの案内所で仕事をしているとき、能登半島地震が発生した。

「これはただごとじゃないと思って外に出たら、道が割れて水を吹いていて、隣のアパートの塀が全部ばーって倒れて。『これはやばい』と思いました。実際はどれくらい揺れていたんでしょうか。すっごく長く感じました。揺れが止まらないと思いました」

店の前の水道管が破裂し、液状化現象が起きたような状態だった。「これで、もう水はでないな」と思ったという。

地震発生直後、亀裂が走った店の前の道路=中川さん提供
隣のアパートのブロック塀が倒れた=中川さん提供
水道管が破裂し道路は液状化のような状態に=中川さん提供

能登は空き家が増えている。中川さんは、そんな空き家を買い取り改修し、貸別荘として運営するビジネスモデルを展開している。現在は買い取りだけでなく「賃貸」の形もとっており、物件を持っているオーナーにとっては、使わない期間の資産の有効活用にもなる。また経営する側にとっては初期投資を抑えることができるというメリットもある。「地域に空き家を増やしたくない」という思いが、このビジネスモデルの原点にある。
中川さんは1985年生まれ。サラリーマン生活をやめてUターンし、今の仕事を始めたのは2012年で、そのとき管理する別荘は9棟だった。その後、事業を拡大し、現在は「ハートランドヒルズin能登」という名前で、志賀町の「志賀の郷リゾート」、七尾市中島町の「おまきベイ」、志賀町富来のペンション「富来エリア」、閉鎖していたキャンプ場を復活オープンさせた七尾市庵町の「いおりリゾート」など、20棟以上の貸別荘とキャンプ場、ペンションを管理運営している。

正月の能登を襲った最大震度7の能登半島地震。

「女性のスタッフが『津波がくるみたいやし、避難した方がいい』と言うんですけど、僕は立場的にもお客さんがいらっしゃるので、逃げるっていう選択肢はありませんでした。本当は逃げなければいけないんですけど。『どうしよう、やばいな、どうしよう』と思ったことを覚えています。お客さんの状況は分からないし、別荘を見に行くこともできないし……。圧倒的に、これは何もできないと思いました」

2日朝、志賀町高浜の住宅地=中川さん提供

別荘は地震で大きな被害を受けた。1棟が全壊、1棟が全半壊。「幸いなことにその2棟は予約が入っておらず空きだった」という。予約客のほとんどはチェックイン済みだったが、すぐに帰宅した人、別荘で泊った人。対応に追われ、中川さんは事務所で一夜を明かした。

未曽有の災害にどう向き合えばいいのか。お客様の対応、従業員のこと、資金繰りのこと――。

その夜、一人パソコンに向かい、何をしなければならいか方針を決め、書き出した。「能登半島地震 今後の対応」というタイトルの箇条書きの文書である(一部抜粋)

■2024年1月1日16時頃 能登半島地震発生・震度7
★やる事
お客様とスタッフ、スタッフの家族の安全を最優先する。
全員がケガも無く、安全に家に帰れることを目的とする。

【ハートランドヒルズについて】
・1月2日より今月いっぱいは休止とする。
・ホームページに情報を載せる。
・1月2日に順次お客様に連絡する

【会社運営について】
・とりあえず通常通り営業する。
・社員も不安だろうが、仕事と賃金は極力通常通り提供する。
・資金猶予を持たせるため、使えるものはすべて使う。
・借りれるお金は極力借りる。

経営者としてどう振る舞うべきか、覚悟がにじむ。

「不安で仕方がなかったんです。とりあえず金は借りられるだけ借りようとか。1ヵ月後に営業再開するとか、そんなこと書いたのを覚えています。でも、そうでもしていないと、心が落ち着かなかったんです。右往左往しているわけにいかなかったので。ただ書いていくと見えてくると思ったのかな」

眠れぬ夜を過ごした迎えた2日目の朝。店の前に何台もの消防車が止まっていた。撮影時間は午前7時36分。近くの橋は段差ができて、通れない状態だった。

「津幡の消防が10台ぐらいで、『今から穴水に人を助けに行きます。でもそこは通れないのですが、どこが通れますか?』って聞かれたんですが、『分かんないです』って……」

立ち往生する緊急車両=中川さん提供
橋には段差ができて車は通行できない=中川さん提供

地震後の観光について聞いてみた。

「僕は『志賀町』としては見てない。『能登』で見てるんです。海はきれいだし、自然は豊かだし、ご飯はおいしいし、水も綺麗。でもこれは能登のどこへ行っても、全部当てはまちゃうんですよね。泊まりに来てくれるお客さんも、この自然の良さがあるからて来ている、能登の良さがあるから来ていると思うので、それを今後も感じてもらえるようなことが出来ればいいかなと思います」

ハートランドとは「心のふるさと」。地震に見舞われ、改めて「ふるさと能登」を思う。

「貸別荘というスタイルを全国展開していきたいと思ったこともあったんですが、地震があって思ったんです。能登といっても地域によって違うので、僕はやっぱり能登でこういう、能登で仕事させていただいているんだと。だから、こういう仕事をたくさんやっていきたいと思いました。この貸別荘というスタイルを、能登のいろんな地域で出来たら、それぞれ能登の良さを感じてもらうことが出来るんじゃないかな」

「ハートランドヒルズin能登」中川広紀さん

ハートランドヒルズin能登

石川県能登半島の海の近くに全23棟ある貸別荘コテージです。バーベキュー場完備で、天然温泉100%のお風呂、さらにペットも無料で泊まれるため、自分達だけの特別な時間を過ごせます。
人数やシーンに合わせて自分のお気に入りの棟をお選び下さい。
他にも海に面したキャンプ場(365日営業)もございます。
当施設は旅館業取得の安心安全の宿泊施設です。
※ご予約はご利用日の1年前より承ります。

https://hl-hills.jp/


〈ライタープロフィール〉
高橋 徹(たかはし・とおる)

1958年、石川県金沢市生まれ。北陸朝日放送で報道部長、東京支社長、報道担当局長などを勤める。記者として原発問題や政治・選挙、オウム真理教事件などを取材してきた。著書に「『オウム死刑囚 父の手記』と国家権力」


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