江﨑青さん 「古材クリエイト青組」代表
能登半島地震や奥能登豪雨で被害を受けた建物で、公費解体の対象となるのは3万9000棟余りだ。2025年4月末現在で2万6000棟、対象の約66%の解体は済んでいる。
「いやもう、悲しいですよ。野球場に解体された古民家の木材が山積みにもなっているのを見ると、あれが全部捨てられていくのかと思い、辛くなります」
そう話すのは、志賀町富来高田の建築会社「古材クリエイト青組」代表の江﨑青さんだ。解体された家屋の古材を回収し、テーブルや椅子、店舗やオフィスで用いる什器に生まれ変わらせて再利用する取り組みを進めている。青組のインスタグラムには「捨てられるモノを創造的に活用する事業を行なっています。古材、古道具、古建具のレスキュー、販売」とある。
古材とは、民家で使われていた木材の中から、まだ使えるとして回収された材のことで、現在では入手が難しい銘木や、長い年月が積み重なって独特の質感と風合いを醸し出す木材も多い。
江﨑さんのインタビューを行った青組の倉庫は、回収した床板、壁板、柱、梁(はり)などで埋まっていた。
「古い家は元々好きでした。僕は一度、社会人になってから京都の専門学校に行っているんですけど、京都は古い家がたくさん残っている地域で、すごい興味ありました。古い家ばかり勉強しました。その後、設計事務所に就職するんですけど、アスファルトやコンクリートの建築ばかりの会社だったので、もっと木材に関わりたいと思って能登に戻ってきたんです」
江﨑さんは1990年、輪島市三井町で生まれた。2023年、志賀町富来高田に倉庫兼作業場を借り、本格的に事業を始めようとしていた矢先に、能登半島地震に見舞われた。
「倉庫の横の自宅に一人で居て。僕は趣味が釣りなので、釣りに行こうかと準備しているときに揺れた。ここは運よく、電気が止まらずテレビが映っていたんですが、津波警報と避難の呼び掛けがすごくて、これはやばいなと思って、飼っているネコを連れて、車で山の方に逃げました。避難所ではなく、とりあえず高い所へ」
大津波警報が解除され自宅に戻ると、中はぐちゃぐちゃで、屋根が一部剥がれ落ちていたが、建物の倒壊は免れた。
その後、被災地支援に当たっている民間団体「のと復興ラボ」が、「のと古材レスキュープロジェクト」を始めると知り、「これは一緒にやるしかない」と思い、プロジェクトに参加した。
古材レスキューの流れはこうだ。まず家主から『うちの家を壊すんだけど、何か再利用できないか』とか『柱だけでも残したい』などの相談が届く。すると江﨑さんがレスキューに入る。柱や床板などの古材だけではなく、棚、農機具、木のたる、ときには茶箱や漆塗りの器も回収する。回収した古材や古道具はベンチや棚などの家具に生まれ変わるが、傷や虫食いがあり、どうしても使えないものは薪にする。再生したものは、家主の手元に戻ることもあるし、違う人の手に渡っていく場合もあるという。


輪島高校に設置したベンチの写真を見せてもらった。
輪島高校のビジネスコースの3年生は大成建設とコラボして、災害ゴミに新たな命を吹き込む「転生プロジェクト」に取り組んできた。卒業制作で作ったベンチは、脚には江﨑さんがレスキューした古材を使い、天板には使わなくなった漁網をプラパネルに加工し再利用した。

しかし実際レスキューできたのは、まだ50棟ほどで、公費解体対象家屋の1%にも満たない。
「家って、文化の生まれるところだと思います。生活を中心にいろんな民芸なんかも生まれてきたはずなんですけど、それがなくなると思うと、能登から文化がなくなっていくんじゃないかなという気がして。その喪失感というのは……、やっぱり喪失感です」
公費解体は所有者に代わって自治体が解体や撤去の費用を負担する制度だ。石川県は公費解体加速化プランを策定し、2025年10月の完了をめざしている。解体を急ぐ理由は、被災者の生活環境整備や、二次災害の防止だ。
江﨑さんは「建て替えて復興したいという家主さんの気持ちも分かるし、自分たちの思いだけで解体を止めることは出来ない」と、もどかしさを明かす。

レスキューを進める中で、江﨑さんは「物のレスキュー」だけでは、意味がないと気付いたという。新たな試みも始めようとしている。
「例えば、レスキューした古材でお盆を作って、そのお盆に付いているタグのQRコードを読み取る。すると、『解体されなくなった家の梁だった』とか、『茶の間の柱だった』とか、そういう家の歴史とか思い出が現れる。貴重な材だから作業するんじゃなくて、その家のストーリー性を大事にする取り組みをしたい」
自分が生まれ育ち、家族と過ごした家が更地になる。喪失感は計り知れない。そんな家主の思いを少しでもくみ取ることが出来ないか。「古材レスキュー」は、「心のレスキュー」でもある。

古材クリエイト青組
捨てられるモノを創造的に活用する事業を行なっています。
◉古材、古道具、古建具のレスキュー、販売
◉古材家具、小物のデザイン制作、販売
◉古民家の手壊し解体、移設
◉古民家改修
https://www.instagram.com/ao_gumi_cozaicreate
〈ライタープロフィール〉
高橋 徹(たかはし・とおる)
1958年、石川県金沢市生まれ。北陸朝日放送で報道部長、東京支社長、報道担当局長などを勤める。記者として原発問題や政治・選挙、オウム真理教事件などを取材してきた。著書に「『オウム死刑囚 父の手記』と国家権力」