#6「どうぞ能登に足を運んでください」 被災地からの発信

 

竹下洋平さん 家族コテージ ノトイエ経営

志賀町の中心部にほど近い丘陵地に別荘やコテージが点在するエリアがある。「志賀の郷(さと)」と呼ばれるリゾート地だ。その一画に木立に囲まれたログハウスが建っている。「家族コテージ ノトイエ」の管理事務所だ。

2024年1月1日。ノトイエを経営する竹下洋平さんの妻・夏子さんは宿泊客に対応するため一人で管理事務所にいた。そして、インスタグラムに開業10周年の御礼と、新年のあいさつを投稿した。

謹んで新春のお慶びを申し上げます。
本年、家族コテージ ノトイエは
開業10周年を迎えます
10年の節目ということで、
また気持ち新たに、より一層の
サービス向上に努めて参ります❗️

ノトイエのインスタグラムより

ノトイエのインスタグラムより=竹下さん提供

投稿直後、大きな揺れがノトイエを襲った。

「デスクに向かっていたんですけど、かなり揺れましたね。身の危険を感じて、机の下に隠れました。(棚の上の荷物などを指さしながら)これが落ちてきたら死ぬなと思いました。自分の意思で机の下にもぐることがあるんだって思いました」

車で5分ほどの距離にある自宅から、洋平さんが駆け付けた。

「とにかく、お客様のところへ行かないといけないと思って、車に飛び乗ったんです。身動きが取れない、動けないという状態ではなかったんで」

ノトイエは5棟を管理していて、すべて予約で埋まっていた。洋平さんは、当時の様子をこう話す。

「5組目の方が到着した直後に地震が起きたんです。その方はすぐに帰られましたが、車でホテルの駐車場に避難された方もいます。ノトイエは建物が倒壊するようなことはなかったんで、そのままコテージに滞在していた方もいるし。泊まる方は大体、食料とか飲み物とか、持ってきているので。水も、ある程度ストックがありました」

コテージの「3号棟そよかぜ」 大きな損傷はなかった=竹下さん提供
亀裂が走ったコテージ内の壁=竹下さん提供

コテージは一部で壁などに亀裂が入ったが、幸い倒壊するなどの被害はなかった。水は出なくなったが、電気はきていたので、暖をとることはできた。
しかし、当面、営業をすることは出来ないと判断し、夏子さんは、この日2度目のインスタグラム投稿をした。

【営業休止のお知らせ】
本日午後4時過ぎに発生した地震のため、
能登地方を中心に甚大な被害が出ております。

建物や道路などに被害があり、
詳細はまだ確認出来ておりませんが、
当面の間は営業が難しいかと思われます。

ノトイエのインスタグラムより

この投稿に、様々なところから励ましの声が届いた。

《ニュースで被害が日に日に明らかになる状況見るたびに3.11のときのように心が痛みます》
《余震、天候、気温差などライフラインの確保と身の安全、健康面等もお気をつけ下さい》

ノトイエのインスタグラムより

竹下洋平さんは大阪府生まれ。飲食店やホテル勤務を経て、カナダへ語学留学した。帰国後は東京の外資系ホテルに就職し、そこで知り合った夏子さんと結婚した。しかし、「伸び伸びとした環境で子供を育てたい」と移住を決め選んだのが、夏子さんの生まれた志賀町だった。

「素晴らしいところです。『能登はやさしや、土までも』といいますけれど、温かみがあるんですよ。食べ物が美味しい、お米も美味しい、野菜も美味しい。もちろん魚も。さっきも知り合いから、魚をもらったんです。いま冷蔵庫に入ってますが、メジマグロですかね」

2014年に1棟でスタートした貸しコテージのビジネス。中古物件を買い取って改装し一棟貸しする。借りている物件も含めて、現在は5棟を管理する。

「いわゆる『シェアリングエコノミー』というんですかね。所有するという時代ではなくなってきた。メリットよりもデメリットが多いと思います。別荘を所有するっていうより、使う時だけ料金払うというのが一番で、使う人も経済的な負担も少ないし、管理する手間もいらない。年に数回しか来ないのに、維持だけで莫大な費用がかかるというのは、合理的ではないですよね」

「シェアリングエコノミー」は時代の最先端をいく経済モデルである。
「空間」をシェアするシェアオフィスやコワーキングスペース、「移動」をシェアするシェアサイクルやカーシェアリング、「スキル」をシェアする家事代行やクラウドソーシング。「クラウドファンディング」も、金融機関からの融資ではなく、多くの人が少額ずつ資金を提供し、アイデアをシェアし支援することから「シェアリングエコノミー」の一つといえる。

ノトイエは、「じゃらんネットランキング 泊まって良かった宿大賞(50室以下部門)」で、2022年、2023年と2年連続で石川県1位を獲得した。竹下さんは、宿泊客の声や時代のニーズにアンテナを張る。

ノトイエのインスタグラムより=竹下さん提供

2024年4月16日。ノトイエのインスタグラムに、満開の桜の写真とともに、営業再開のお知らせが載った。

【営業再開のお知らせ】
元日の地震から100日と1週間が経ちました。

地震の爪痕はもちろんまだまだありますが、
桜が見頃を迎えた今、
たくさんの方に支えられながら
能登は復興へと歩を進めています。

桜の季節には間に合わなくても
新緑の間をぬける風が心地好い季節です。
どうぞ能登へ足を運んでください。

ノトイエのインスタグラムより

能登の自然に魅せられ始めた移住生活。「多くの人に能登へ来てもらいたい」と始めたコテージの事業。能登は地震で大きく傷ついた。それでも、桜は春を待つ。
――どうぞ能登へ足を運んでください――
15文字に、この地に生きる人たちの思いが詰まっている。

家族コテージ ノトイエ」竹下洋平さん

家族コテージ ノトイエ

石川県・能登の森の中、豊かな自然に囲まれたコテージで 家族や仲間、愛犬とのんび~り過ごす。そんな休日はいかがですか? コテージの周りは、木々の緑があふれ、鳥のさえずりや虫の鳴き声が聞こえてきます。 窓からの自然を眺めながら温泉につかる、など大切な方とのんびり過ごすには最高の環境です。 ノトイエは、お客様の第2の我が家(=別荘)として快適にお過ごしいただける施設でありたいと思っています。

https://notoie.com/


〈ライタープロフィール〉
高橋 徹(たかはし・とおる)

1958年、石川県金沢市生まれ。北陸朝日放送で報道部長、東京支社長、報道担当局長などを勤める。記者として原発問題や政治・選挙、オウム真理教事件などを取材してきた。著書に「『オウム死刑囚 父の手記』と国家権力」


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